「インプロ(即興演劇)を学ぶとコミュニケーションがうまくなる」という嘘

あたくしはインプロとよばれる即興演劇をしています。
主にキース・ジョンストンというかわいいおじいちゃんのいっていることを参考にしつつ、パフォーマンスをしたり、ワークショップをしたりしています。あたくしの所属しているインプロ団体はこちらです。

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インプロは俳優教育をはじめとして、企業、学校、地域活性など、いまやたくさんの場所で「使われて」います。インプロのゲームや思想が、あらゆる場面で「有効である」と考えられてきたからです。そうしたワークショップは、よいかわるいかは別にして、一般的なアルバイト以外の俳優さんの大切な収入源のひとつとなったりもしています。

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インプロをやったことがあるとか、見たことがあるという方もずいぶん増えてきました。しかしそれに伴って、「危ういなあ」と感じる団体やプレイヤーも、たくさん見かけるようになってきました。

特に感じる危うさのひとつが、「インプロを学ぶとコミュニケーションがうまくなりますよ」といううたい文句です。こんなふうに安易な呼びかけでワークショップを開催しているのを見かけたりすると、こわいなあというか、思考停止も甚だしいというか、主催のひとはあたくしとのコミュニケーションに難儀するだろうなあとか、そういうことを考えてしまいます。

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なにせ、何年もインプロを続けてきて、毎月インプロの舞台に立っているあたくしがまったくコミュニケーションがうまくないからです。

一般的に、インプロによって学べるとされている3つの要素があります。

クリエイティビティ/コミュニケーション/コラボレーション です。

インプロによってクリエイティビティ(独創性)を引き出し、コミュニケーションによる他者理解を促進し、クリエイティブなコラボレーション(協働作業)ができるようになる、というわけです。あたくしは特に、このコミュニケーションという言葉がたいそう誤解されているように感じています。

なぜなら、あたくしはコミュニケーションはスキルではなく状況であると考えるからです。状況であるからには、その場その空間においての立ち振る舞いがあるというだけであって、それこそがインプロ(即興)の考え方であるはずです。ところが、どこかインプロは「インプロのスキルを身に着けると、どんな場所でも、誰とでもコミュニケーションがうまくいく」といったような、ねじ曲がった魔法のように誤解をされている印象があります。

コミュニケーションにおいては「スキル」は存在しえなく、あるのは状況だけなのではないでしょうか。というのがあたくしの基本的な考え方です。

インプロには思想があります。それは”Give your partner a good time”とか”Yes, and “とか、端的な言葉に集約されるシンプルで、掘り下げがいのある思想たちです。しかし、残念なことに、こういった思想が単なる意思伝達上のTIPSに貶められてしまっている場がかなりの数あり、そうしたところにあたくしはとても違和感を感じているのだと思います。それこそが悪しき「コミュニケーションスキル」であり、magical TIPのかたちをしたモンスターであるような気がしています。

インプロは誰でもできるし、続けたり、やめたりするハードルもそれほど高くはありません。とはいえ、何度かワークショップを重ねただけで理解したような気になれるものでもないと思います。

やみくもにハードルを上げたいという意味では全くありません。ただ、インプロを教える側も、学ぶ側も、インプロを単なる「コミュニケーションスキル」として消費してしまうことで、ますます悪い結果をもたらすようなことに加担していないのだろうか、と考えたりもします。

ここ数年で若いインプロ団体も増え(我々もそのうちのひとつです)、にわかに日本の業界が盛り上がっている感があります。そういう時期だからこそ、いっそう立ち止まって考えたい問題がいくつもありますね。